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職人から「一人前」について聞いて、思わず背筋を正して正座(お店日記より)

今夏から月イチで友人と手芸部なることをやっています。いつも友人宅にお邪魔して、刺繍の練習をしています。寒くなったら編み物もする予定で、いつもと違うことに集中するのは、なかなか楽しいものです。

すると、友人の旦那さんがお昼にふらりと帰宅し、しばしみんなでおしゃべりした時の話が非常に面白かったのでした。そういうわけで、今日はこれを書きます。どうも長くなりそうです。なんとか占いの話に着地できるといいのだけど。。。

旦那さんのOさんは、親御さんの営むテーラーで職人をしています。燕尾服やオーダースーツを仕立てています。そのOさんが、奥さんである友人にこんなことをニコニコ伝えました。

「今度、一人職人さんが辞めることになってさ。もう82歳だしね。で、今、知り合いから37歳で良さそうな人がいるって紹介してもらったところでさ。37ならまだ間に合うしね」37歳を新人として一から育てることをほぼほぼ決心したそうです。見込みがありそうと踏んだらしい。

え?? それを側で聞いていた私は、それって?どういうこと?と聞き直したことから、深い深い職人ワールドへ連れてってもらったのでした。

「あと20年なら、俺もまだ60代だし、面倒見てやれるかなと思って。その人はその頃57になるけど、まぁ大丈夫かなって」

え???? 20年も?人の面倒を見るのか? 思わず私は喰いつきました。

Oさん曰く、高校出てからテーラー修行を始めたとして、一から十までの基礎技術をひと通り身につけるには、平均10~12年かかるそうです。ベテランが集中的に新人を仕込み、しかもその新人の筋がいい場合に限り、早くて8年くらいで身につくそうです。

最初の頃は、布の縮み具合を体で覚えるために、毎日毎日布を水に濡らしては、アイロンで伸ばし、また水に濡らしてアイロン伸ばし、この作業を朝から晩まで繰り返すことを何ヶ月も続けるそうです。その後、次のステップに進んでも、同じサイクルで地道に進みます。ただ、親方に言われたことをそのままやるだけではなく、その間に自分でコツを見つけて行く期間でもあるそうです。しかし、辛くて何度も気が遠くなり「俺、何やってるんだろう…」と悩むそうです。その頃は20代、友達はみんな青春真っ盛りで遊んでるのに、自分だけ職場に引きこもって、布にしか向き合ってないとなると、精神的にしんどくなるのはそりゃあごもっともです。それゆえ、まずこの段階で数人ドロップアウトするそうです。

職人の道に足を踏み入れるときには、最初の10年がこの通りなので、親方からは「この世界は20代に自由はない。結婚は30過ぎになる。その覚悟はあるか?」と尋ねられるそうです。

で、10年間でなんとか基礎を身につけた後、次の10年は実践練習です。自分でやってみて上手くいかないことに遭遇した時、そこまでの工程を遡ってみて、原因を探って自分で解決できるようになるための修行です。

ですが、最初の10年間の基礎修行時に、きちんとやらずにテキトーな自己判断や山カンで、のらりくらりと運よくやってこれた人も中にはいて、そういう人はこの10年の実践練習で行き詰まるそうです。上手くいかないとき、一体どこに原因があったのか、前に戻っても基礎が身についてないから、いくら戻ろうとしても道に迷子になってしまい、パニックになって遭難するんだとか。

しかしまだそこで、素直になって先輩職人に教えを乞えばいいのですが、変なプライドもできてしまい、ますます孤独になる。それに先輩も、そこからまたちゃんと教えたい気持ちはあっても、もう手遅れだろうなぁ…と思うそうです。最初を怠ってしまうと、ずっと先まで響くから、基礎こそ大事とOさんも言ってました。そしてここでまた、数人抜けます。その後の行き先としては、紳士服店の店員さんになったり、全く別業種に変える人もいるとか。

ちなみにOさんにはお兄さんがいて、二人とも親御さんの仕事を継いでます。お兄さんは天才肌で要領もよく、何でもすぐに習得したそうです。しかし自分は不器用だったから、なんども同じことを繰り返すしかなかったし、帰宅した後も隠れて練習したそうです。そうそう、面白いことを言ってました。天才肌の兄は腕もいいし仕事も早いけど、唯一欠点があって、集中力が続かない。今も人間は1.5時間が集中する限界と言って、すぐにサボりに行ってしまうとか。笑

話を戻しまして、無事めでたく20年間の修行が終わる頃には、40歳目前です。その頃になってやっと自分で自分の面倒が見られるようになります。それを一人前というそうです。

最初はOさんの話を楽しく聞いていた私ですが、途中から背筋をピンと正して、正座して聞きたい心境でした。もう自分が恥ずかしくなって、泣きたくなって、穴があったら入りたいくらいでした。

まぁ、私の話はいいです。

で、20年間をしっかり乗り越え、職人として自立してからも、仕事は朝から晩まで布を縫ったりボタン付けをしたり刺繍をしたりアイロンがけをする日々が続き、シーズンになるとみんなで職場に寝泊まりして合宿状態でこなさねばならず相当ハードだそうです。Oさんも「ウチはきついよ~」とニコニコしながら言ってました。ここまで頑張ってきても、ギブアップする人はいます。つい先日もOさんの兄弟子が辞めたとき「これからどうするんですか?」と兄弟子に訊いたら、「しばらくは海でぼーっとする(探さないで…)」としか答えなかったそうです。

なんかもの凄い世界の話をうっかり聞いてしまった私は、記憶だけでなく記録に残しておきたいと思ったところにお店日記当番が回ってきたので、占いには直接関係ないけど、書いてしまいました。まぁ、基礎が大事って話は普遍的なので、おそらく占いの勉強にも応用が効くかもしれませんが。

さて、Oさんのお父さんは80歳過ぎても現役バリバリ。テーラーの仕事がいくらハードでも楽しくて仕方ないそうで、凄い元気だよ~と友人も言ってました。私も死ぬまで現役で働きたい。(まる)